は言いました。
 こうして二人が海岸の石原の上に立っていると、一|艘《そう》の舟がすぐ足もとに来て着きましたが、中には一人も乗り手がありませんでした。
 でおかあさまは子どもを連れてそれに乗りました。船はすぐ方向をかえて、そこをはなれてしまいました。
 墓場のそばを帆走って行く時、すべての鐘《かね》は鳴りましたが、それはすこしも悲しげにはひびきませんでした。
 船がだんだん遠ざかってフョールドに来てみますと、そこからは太洋の波が見えました。
 むすめはかくまで海がおだやかで青いのに大喜びをしましたが、よく見ると二人の帆走っているのは海原《うなばら》ではなくって美しくさきそろった矢車草《やぐるまそう》の花の中でした。むすめは手をのばしてそれを摘み取りました。
 花は起きたり臥《ふ》したりしてさざなみのように舷《げん》に音をたてました。しばらくすると二人はまた白い霧に包まれました上にほんとうの波の声さえ聞こえてきました。しかし霧の上では雲雀が高くさえずっていました。
「どうして雲雀は海の上なんぞで鳴くんでしょう」
 と子どもが聞きました。
「海があんまり緑ですから、雲雀は野原だと思っている
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