れていました。
 重い手かごを門の外に置いて、子どもを抱き上げて、自分と海岸との間に横たわる広野をさしておかあさんは歩きだしました。その野は花の海で、花粉のためにさまざまな色にそまったおかあさんの白い裳《もすそ》のまわりで、花どもが細々とささやきかわしていました。蜂鳥《はちどり》や、蜂《はち》や、胡蝶《こちょう》が翅《つばさ》をあげて歌いながら、綾《あや》のような大きな金色の雲となって二人の前を走って歩きました。おかあさんは歩みも軽く海岸の方に進んで行きました。
 川の中には白い帆艇《はんてい》が帆《ほ》をいっぱいに張って、埠頭《ふとう》を目がけて走って来ましたが、舵《かじ》の座《ざ》にはだれもおりませんでした。おかあさんは花と花のにおいにひたりながら進みますから、その裳は花床よりもなおきれいな色になりました。
 おかあさんは海岸の柳《やなぎ》の木陰に足をとめましたが、その柳の幹と枝とにはさまった巣《す》が、風のまにまに柳がなびくにつれて、ゆれ動いて小鳥らを夢《ゆめ》にさそいます。むすめはその小鳥らをなでてやりたがりました。
「いえ、鳥の巣にはふれるものではありません」
 とおかあさん
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