に向かって聞いた。
「平民の女性は、今でも、そら、あすこの廊下のそばに待っております。ところで、上流の貴婦人がたのためには小部屋が二つ、この廊下に建て添えてありますが、しかし囲いの外になっておりますので、そら、あすこに見えておる窓がそうです。長老は気分のよいときには内側の廊下を通って、婦人がたに会いに行かれるのです。つまり、囲いの外で。今も一人の貴婦人のかたが――ハリコフの地主でホフラーコフ夫人とかいうかたが、病み衰えた娘御を連れて待っておられます。たぶんお会いすると、約束をされたのでございましょう。もっとも、このごろは非常に衰弱されて、一般の人たちにもめったに会いに出られませんが」
「じゃあなんですな、やっぱり庵室から婦人がたのところへ、抜け穴が作ってあるわけですな。いやなに、神父さん、わしが何かその、妙なことでも考えておるなどと思わんでくださいよ。別になんでもないので、ところで、アトスでは、お聞き及びでしょうが、女性の訪問が禁制になっとるばかりか、どんな生物でも牝《めす》はならん、牝鶏でも、牝の七面鳥でも、牝の犢《こうし》でも……」
「フョードル・パーヴロヴィッチ、僕はあなたを一人
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