青ざめた僧の唇には、一種ずるそうなところのある、かすかな無言の微笑が浮かんだ。けれども、彼はなんとも答えなかった。その沈黙が自分の品位を重んずる心から出たものだ、ということは明瞭すぎるくらいであった。ミウーソフはいっそうひどく眉をしかめた。
『ええ、ろくでもない、幾世紀もかかって仕上げたような顔をしているが、その実、駄法螺《だぼら》だ、荒唐無稽だ!』こうした考えが彼の頭を掠《かす》めた。
「あああれが庵室だ、いよいよ来ましたぜ!」とフョードルが叫んだ。「ちゃんと囲いがしてあって、門がしまっとるわい」
彼は門の上や、その両側に描いてある聖徒の像に向かって、ぎょうさんそうな十字を切り始めたものだ。
「郷に入っては郷に従えということがあるが」と彼が言いだした。「この庵室の中には二十五人からの聖人様が浮き世をのがれて、お互いににらみっこをしながら、キャベツばっかり食べてござる。そのくせ女は一人もこの門をはいることができん――ここが肝心なところなんですよ。しかもこれは全く本当のことなんですよ。しかし、長老が婦人がたに会われるという話を聞きましたが、どんなものでしょうな?」こう彼は不意に案内の僧
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