こもっておられますので、あの林の向こうですよ、あの林の……」
「それはわしも知っておりますよ、林の向こうだということはな」とフョードル・パーヴロヴィッチが答えた。「ところが、わしらは道をはっきり覚えておりませんのじゃよ、だいぶ長い御無沙汰をしましたのでな」
「ああ、それならこの門をはいりましてな、まっすぐに林を通って……林を通って……さあまいりましょう。もしなんでしたら……わたくしが……さあ、こちらへおいでなさい、こちらへ……」
一同は門をくぐって林の中を進んで行った。地主のマクシーモフは、六十くらいの男であったが、さっさと歩くというよりは、横っちょに駆け出すようにしながら、身震いの出るような、ほとんど名状しがたい好奇心をもって、一行を眺め回すのであった。その目のうちには、なんとなくあつかましい表情があった。
「実は、僕たちがあの長老のところへ行くのは、特別な用事のためなんですよ」とミウーソフはいかめしく彼に注意した。「僕たちはいわば『あのかた』に謁見《えっけん》を許されているんだからね、道案内をしてくださるのはありがたいけれど、御いっしょにおはいりを願うわけにはいかんですよ」
「わ
前へ
次へ
全844ページ中90ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中山 省三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング