ノフという二十歳くらいの非常に若い青年と同乗していた。この青年は大学へはいろうとしていたが、ミウーソフ――この人の家に彼は何かの事情で当分同居していたのだ――は、自分といっしょに外国へ、チューリッヒかイエナへ行って、そこの大学を卒業したらと、彼をそそのかしていた。が、この青年はまだ決心がつきかねているのであった。彼はなんとなく瞑想的《めいそうてき》で、どこか放心したようなところがあった。その顔は感じがよく、体格もしっかりしていて、背はかなり高いほうであった。ときどきその眸《ひとみ》が奇妙に固定することがあったが、それはすべて放心した人の常で、じっと長いあいだ人の顔を見つめることがあるけれど、そのくせ、ちっとも相手を見ているのではない。彼は無口のほうで、どこか少しぎこちないところがあった。しかしどうかすると、――もっとも誰かと二人きりで差し向かいのときに限るが、急にしゃべりだして、何がおかしいのかむしょうに笑いだすことがあった。けれどもこうした元気は、起こり初めと同じように、不意にぱったり消えてしまうのであった。彼はいつも立派な、しかも上品な服装《みなり》をしていた。もうなにがしかの独立
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