いので、いろいろ考えたすえ、手紙で『卑劣な言行』を見聞きしても、一生懸命に自分を抑制する、そして長老とイワンに対して深い尊敬を払っているけれど、今度のことは自分をはめるための罠《わな》か、でなければばかばかしい茶番に違いないと確信している。『しかしとにかく、自分の舌を噛《か》み切っても、おまえがそんなに尊敬している長老に対して、不敬なことはけっしてしない』そういう文句でドミトリイの手紙は結んであった。だが、アリョーシャには、それもさして心を引きたてるよすがにはならなかった。
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 第二篇 お門違いな寄り合い


   一 修道院に着く

 美しく澄み渡った暖かい晴朗な日和《ひより》であった。それは八月の末のことであった。長老との会見は昼の弥撒《ミサ》のすぐあと、だいたい十一時半ごろということに決まっていた。わが訪問者たちは弥撒には列しないで、ちょうどそれの終わるころに到着した。彼らは二台の馬車に乗って来たが、二頭の高価な馬をつけた、瀟洒《しょうしゃ》な先頭の軽馬車には、ピョートル・アレクサンドロヴィッチ・ミウーソフが、その遠い親戚に当たる、ピョートル・フォミッチ・カルガー
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