の応対ぶりはたいていいつでも、いかにも愉快そうであった。それに、彼は少しでもよけい罪の深い者に同情し、誰よりも最も罪の深い者を誰よりもいちばんに愛するのだ、と僧たちは話していた。僧たちの中には、長老の生涯が終わりに近づいた今でさえ、彼を憎んだりねたんだりする者があった。しかしそんな人もしだいに少なくなって、あまり悪口をつかなくなった。もっともそういう連中の中には、修道院でも非常に名の通った、有力な人物も幾人かあった。たとえばその中の一人は、古参の僧で、偉大な無言の行者でかつ稀有《けう》の禁欲家であった。しかしそれでも大多数の者は、すでに疑いもなくゾシマ長老の味方であった。しかもその中には、全心を打ちこんで熱烈|真摯《しんし》に彼を愛している者も少なくなかった。ある者に至っては、ほとんど狂信的に彼に傾倒していた。こうした人たちは公然にこそ言わないが、長老は聖者である、それにはいささかの疑いもないと噂していた。そしてほどなき長老の逝去《せいきよ》を予想していたので、ごく近いうちにその死体から急に奇跡が現われて、この修道院にとって偉大な名誉となるに違いないと期待していたのである。長老の奇跡的
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