人がこんなことを言っていた――彼のもとへあらゆる人々が、めいめいの心中を打ち明けて、霊験のあることばや忠言を聞こうという渇望に燃えながらやって来るので、長老は多年こういう人たちと接して、その懺悔や、苦悩や、告白を限りなく自分の心に受け入れたので、しまいには自分のところへ来る未知の人を一目見ただけで、どんな用事で来たのか、何が必要なのか、いかなる種類の苦しみがその人の良心を苛《さいな》んでいるかというようなことまで、見抜いて、本人がまだ口をきかない先に、その霊魂の秘密を正確に言い当てて、当人を驚かしたりきまり悪がらせたり、ときには気味悪く思わせたりするほどの、繊細な洞察力を獲得しているのであった。しかもほとんどいつもアリョーシャの気づいたことは、最初、長老のところへ差し向かいで話しに来る多くの人が、たいていみな恐怖と不安の表情ではいって行くが、出て来るときには、晴れやかな喜ばしそうな顔つきになっていることであった。全く、恐ろしく陰気だった者が、さも幸福そうな顔に変わるのであった。いま一つアリョーシャを非常に感動させたのは、長老がけっして厳格ではなかったことである。そればかりか、かえってそ
前へ
次へ
全844ページ中74ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中山 省三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング