すい、生まれつき発育のよくない、貧弱な痩《や》せ衰えた人間で、青白い顔の空想家だろうと、考えられるかたがあるかもしれぬ。ところが、その正反対で、そのころのアリョーシャは堂々たる体格に、ばら色の頬をして、健康に燃えるような明るい眸《ひとみ》の、二十歳の青年であった。そのころの彼はむしろ非常な美貌の持ち主であった。すらりとした中肉中背で、黒みがかった亜麻色の髪に、輪郭の正しい、しかもこころもち長めの卵なりの顔、大きく見はった濃い灰色の眼――概して考え深そうな、見たところは、いかにも落ち着いた青年であった。あるいは、ばら色の頬も、狂的信仰や神秘主義の邪魔にはならない、という人があるかもしれないが、しかし、自分には、むしろアリョーシャが誰にもまして真のレアリストではないかと思われる。それはなるほど、修道院へはいってから、彼はすっかり奇跡を信じたのには相違ない。しかし、自分の考えでは、奇跡はけっしてレアリストを困惑させるものではない。奇跡がレアリストを信仰に導くのではないからである。真のレアリストは、もし彼が不信者であるとすれば、常に奇跡を信じない力と才能を持っているのである。そして、もし奇跡が
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