わけだ。ところで、もしわしを鉤にかけて引きずりこまないとしたら、そのときはどうだろうな、いったい、この世のどこに、真理があるというんだ? Il faudrait les inventer(ぜひとも作り出さにゃならんのだ)ことさらにその鉤をわしのために、わし一人のためにな、なぜと言って、とてもおまえにはわかるまいが、アリョーシャ、わしは実になんとも言えん恥知らずだからな!……」
「でも地獄には鉤なんかありませんよ」と父を見つめながら、静かにまじめにアリョーシャは答えた。
「そうだとも、そうだとも、ただ鉤の影ばかりなんだ、知ってるよ、知ってるよ。あるフランス人が地獄のことを書いておるが、全くそのとおりなんだ、J'ai vu l'ombre d'un cocher'qui avec l'ombre d'une brosse frottait l'ombre d'une carosse(わたしは見た、刷毛の影にて馬車の影を磨く御者の影を)だ。しかし、おまえはどうして鉤がないってことを知ってるんだい? 少しのあいだ坊さんたちの中へはいっておったら、そんなことも言わなくなるだろうが。しかし、まあ行くがいい
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