いつが肉袋といっしょになって、退廃期の古代ローマ貴族そのままの顔ができあがっているんだ』それが彼の自慢なところらしかった。
アリョーシャは母の墓を見つけてほどなく、いきなり、父に向かって、自分は修道院へはいりたい、修道僧たちも自分が新発意《しんぼち》になることを許してくれたと言いだした。彼はまたそのとき、これは自分の格別な希望であるから、父としての厳粛な許しが与えられるように、ぜひともお願いすると説明した。老人は、この修道院内の庵室に行ない済ましているゾシマ長老が、自分の『おとなしい子供』に特殊な感銘を与えていることは、すでによく承知していた。
「あの長老は、そりゃあ、あすこではいちばん心の潔白な坊さんだよ」じっと黙ったまま何か考えこむような風でアリョーシャのことばを最後まで聞いて、彼はこう口を切ったが、わが子の願いに驚いた様子は少しもなかった。「ふむ……じゃあ、おまえはあすこへ行こうっていうのか、うちのおとなしい坊主!」彼は一杯機嫌だったが、突然、にやりと笑った。それは例の引きのばしたような、一杯機嫌ながらも、狡猾《こうかつ》さと、生酔いの本性を失わぬ薄ら笑いであった。「ふむ……だ
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