の突発が起こるものである。
 彼がこのごろ、ひどく気のゆるんできたことは、前に述べたとおりである。それに彼の容貌は最近とみに、過去の生活全体の内容と特質を、まざまざと証明するような相好を現わしてきた。いつも無遠慮でうさん臭い、しかも人を嘲けるような小さい眼の下に、長いぶよぶよした肉の袋がたれて、小さいながら脂《あぶら》ぎった顔に、おびただしい皺《しわ》が深く刻まれているばかりでなく、とがった頤《あご》の下から、まるで金財布のようにだぶだぶした横に長い大きな贅肉《ぜいにく》がぶらさがっていた。それが彼の顔にいやらしい淫蕩《いんとう》な相を与えているのであった。そのうえに、腫《は》れぼったい唇のあいだから、ほとんど腐ってしまった黒い歯のかけらをちらちら見せる貪欲《どんよく》らしい長い口が付いているのである。彼は話をするたびに唾《つば》をやたらに跳《は》ね飛ばした。とはいえ、よく好んで、われとわが顔をひやかしたものであるが、さしてその顔に不満足でもなかったのである。ことに彼はそれほど大きくはないが、非常に細かくて、ひときわ目立つ段のついた鼻を指しながら、『正真正銘のローマ鼻だ』と言った、『こ
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