、音のいい頬打ちを二つばかり食わしておいて、髪の毛をつかむと、三度ばかり、上から下へ引きむしった。それから、口もきかないで、さっさと二人の子供のいる下男小屋へおもむいた。彼らが湯も使っていないうえに、よごれきったシャツを着ているのを一目で見てとると、いきなり夫人はまたグリゴリイに頬打ちを食わして、子供を二人とも自分の家へ連れて行くと宣言した。そして、二人を着のみ着のままで膝かけの毛布にくるんで、馬車に乗せて自分の町へと連れて帰った。グリゴリイは忠実な奴隷のように、この頬打ちを耐え忍んで、ことば一つ返さずに、老夫人を馬車まで見送ったとき、うやうやしく最敬礼をしながら、子細らしく、『神様が孤児《みなしご》たちに代わってあなた様にお礼をしてくださりましょう』と挨拶《あいさつ》した。将軍夫人は馬車が動き出すと、『それにしてもやはりおまえが間抜けなのだよ!』と叫んだ。
フョードル・パーヴロヴィッチはこの前後の事情を考えてみて、なかなか結構なことだと思ったので、将軍夫人の手もとで子供を養育する件について、のちに正式に承諾を与えたときにも、ただの一項目にさえも異議を申し立てなかった。ところで、例の
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