った。二人の母の恩人であり、育ての親であった強情者の将軍夫人が彼らをはじめて見たのも、やはり、この下男小屋であった。夫人はまだ生きていたが、八年のあいだ、常に自分の受けた侮辱を忘れることができなかった。彼女はこの八年のあいだ、『ソフィヤ』がどんな暮らしをしているか、それとなく、きわめて正確な消息を手に入れて、彼女が病気をしていることや、いかばかり醜い場面の中に暮らしているかを耳にすると、一度ならず、二度も三度も、口に出して居候の女たちに向かってささやいたものであった、『それがあれにはあたりまえなのだよ。神様があれの恩知らずな仕打ちに罰をお当てなすったのだ』
 ソフィヤ・イワーノヴナが亡くなって、ちょうど三か月目に、不意に、将軍夫人はみずからこの町に姿を現わして、まっすぐにフョードル・パーヴロヴィッチの家へ乗りこんだ。夫人がこの町にいたのはやっと半時間ほどであったが、彼女は多くのことを成しとげた。それは日の暮れ方のことであった。彼女がこの八年というもの絶えて会わなかったフョードル・パーヴロヴィッチは酔いしれて夫人の前に出た。すると、夫人は何一つ物を言わずに、彼の顔を見るなり、きき目のある
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