歩後ろに立っているアリョーシャを眺めたものは、一瞬にして彼の両頬を染めた紅潮に気がついたことであろう。彼の眼はぱっと輝いて伏せられた。
「アレクセイ・フョードロヴィッチ、この子はあなたにことずかりものをしていますのよ……御機嫌はいかが?」突然、母夫人はアリョーシャのほうを向いて、美しく手袋をはめた手を差し出しながら、語をついだ。長老はつとふり返ると、急にアリョーシャをじっと見つめた。アリョーシャはリーザに近寄ると、なんとなく妙な、間の悪そうな薄笑いを浮かべながら、彼女の方へ手を差し出した。リーズはもったいらしい顔つきをした。
「カテリーナ・イワーノヴナが、あたしの手からこの手紙をあなたに渡してくれって」と彼女は小さな手紙を差し出した。「そしてね、ぜひ、至急に寄っていただきたいっておっしゃったわ。どうそ瞞《だま》さないでぜひいらっしてくださいって」
「あの人が僕に来てくれって? あの人のところへ僕が……どうしてだろう?」アリョーシャは深い驚きの色を浮かべながら、こうつぶやいた。彼の顔は急にひどく心配そうになった。
「それは、ドミトリイ・フョードロヴィッチのことや……それから近ごろ起こった
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