うしても立たせてくれと申して聞かないのでございます。そしてまる一分間、自分一人で、何にもつかまらないで立っていたのでございますよ。この子はもう二週間もしたら四班舞踏《カドリール》を踊ると申しまして、わたくしと賭《かけ》をしたのでございます、わたくしがこの町のお医者のヘルツェンシェトウベさんを呼びましたところ、肩をすくめながら、驚いた、どうもいぶかしい、とばかり申しているのでございますよ。それですのにあなた様は、わたくしどもがお邪魔をしなければいい、こちらへ飛んで来て礼など言わなければいいが、とお思いになっていらっしたのでございますか? リーズや、お礼を申し上げないかえ、お礼を!」
 それまで笑っていたリーズの愛くるしい顔は、急にまじめになった。彼女はできるだけ肘椅子の上にからだを浮かせて、長老の顔を見つめながら、彼の前に手を合わせた。が、こらえきれなくなって、突然笑いだした。
「あたしあの人のことを笑ったのよ、そらあの人よ!」我慢がならなくなって笑いだしてしまった自分に対して、子供らしいいまいましさを浮かべながら、彼女はこう言って、アリョーシャを指さした。誰にもせよ、このとき、長老の一
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