しているならば、そなたはもはや神の子じゃ……愛はすべてのものを贖《あがな》い、すべてのものを救う。現にわしのようにそなたと同じく罪深い人間が、そなたの身の上に心を動かして、そなたをあわれんでおるくらいじゃもの、神様はなおのことではないか。愛はまことにこのうえもない宝で、これがあれば世界じゅうを買うこともできる。自分の罪はいうまでもなく、人の罪でさえ贖うことができるのじゃ、さあ帰りなされ、恐れることはない」
彼は女に三度まで十字を切ってやり、自分の首から聖像をはずして、それを女にかけてやった。女は無言のまま地にぬかずいて伏し拝んだ。長老は立ち上がると、乳飲み子を抱いた丈夫そうな一人の女を、機嫌よく眺めるのだった。
「ウィシェゴーリエから参じましたよ」
「それは六露里からあるところを、子供を抱いて、さぞくたびれたじゃろう。何の用じゃな?」
「おまえ様を一目拝みに参じましただ。わしはようおまえ様のところへ参じますだに、お忘れなされましただかね? わしを忘れなされたとすりゃ、あんまり物覚えのええおかたではないとみえるだ。村ではおまえ様がわずらっていなさるちゅうこんだで、ちょっとお見舞いにと思
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