のでございます。それも、たった一人あとに残った子でございました。ニキートカとのあいだに四人の子供をもうけましたが、どうもわたくしどもでは子供が育ちません。どうも、神父様、育たないのでございます。上を三人亡くしたときには、それほど可哀そうにも思いませなんだが、こんどの末子だけは、どうにも忘れることができません。まるでこう目の前に立っておるようで、どかないのでございます。まるで胸の中も涸《ひ》あがってしまいました、あれの小さい着物を見ては泣き、シャツや靴を見ては泣くのでございます。あの子が後に残していったものを、一つ一つ広げて見ては、おいおい泣くのでございます。そこで配偶《つれあい》のニキートカに、どうか巡礼に出しておくれと申しましたのでございます。配偶《つれあい》は馬車屋でございますが、さほど暮らしに困りませぬので、神父様、さほど暮らしには困りませぬので。ひとり立ちで馬車屋もいたしておりまして、馬も車もみんな自分のものでございます。けれど今となって、こんな身上がなんの役に立ちましょう? わたくしがおりませんでは、きっとうちのニキートカはむちゃなことをしているに違いありません。それはもう確
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