たところに一人の老僧が立っていた。これはこの修道院の人ではなく、あまり有名でない北国の寺から来た僧である。彼も同じように長老の祝福を受けようとしているのだ。しかし回廊に姿を現わした長老は、そこを通り過ぎてまっすぐにまず群集の方へ進み寄った。群集は低い回廊と庭をつないでいる、三段の階段を目ざして詰め寄せた。長老はいちばん上の段に立って、袈裟《けさ》を着けると、自分の方へ押し寄せる女たちを祝福し始めた。と、一人の『憑《つ》かれた女』が両手を取って前へ引き出された。その女は長老の姿を一目見ると、何やら愚かしい叫び声を立てて、しゃっくりをしながら、まるで驚風患者のように全身をがたがた震わせ始めた。長老がその頭の上へ袈裟を載せて、短い祈祷《きとう》を唱えると、病人はたちまち静かになって落ち着いてしまった。今はどうか知らないが、自分の子供時代には、村や修道院で、よくこんな『憑かれた女』を見たり、噂に聞いたりしたものである。こういう病人を教会へつれて来ると、堂内に響き渡るようなけたたましい叫び声をあげたり、犬の吠《ほ》えるような声を立てたりするが、聖餐が出て、そのそばへ連れて行かれると、『憑きものの
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