ほうで、少し顔色は青いけれど、非常に愛嬌のある女《ひと》で、ほとんどまっ黒な眼がひどく生き生きしている。年はまだせいぜい三十三、四だが、もう五年ばかりも前から寡婦《ごけ》になっている。十四になる娘は足痛風を患っていた。この不仕合わせな娘はもうこの半年ばかり歩くことができないため、車のついた長い安楽椅子に乗せて、あちこち引き回されていた。その美しい顔は病気のために少し痩せてはいるけれど、にこにこしていた。睫《まつげ》の長い暗色の大きな目には、なんとなく悪戯《いたずら》らしい光りがあった。母は春ごろからこの娘を外国へ連れて行く気でいたが、夏の領地整理のため時期を遅らしてしまったのだ。母娘はもう二週間ばかりもこの町に滞在しているが、それは神信心のためというよりは、むしろ所用のためであった。しかし三日前にも一度、長老を訪れたのに、今日また突然二人は、もう長老がほとんど誰にも会えなくなったことを承知しながら、再びここへ出向いて、もう一度『偉大な治療主を拝む幸福』の恵まれんことを嘆願したのである。長老が出て来るのを待つあいだ、母夫人は娘の安楽椅子のそばの椅子に腰かけていたが、彼女から二歩ばかり離れ
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