ものを尊重するようになる。
 そもそも最初の瞬間からして、彼には長老が気に入らなかった。実際、長老の顔にはミウーソフばかりでなく、多くの人の気に入らなそうなところがあった。それは腰の曲がった、非常に足の弱い、背の低い人で、まだやっと六十五にしかならないのに、病弱のため、ずっと――少なくとも十くらいは老《ふ》けて見える。顔はひどく萎《しな》びて小皺《こじわ》に埋もれている。ことに眼の辺がいちばんひどい。薄色の小さな眼はしつこく動いて、まるで輝かしい二つの点のようにぎらぎら光っている。白い髪の毛は顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》のあたりに少々残っているだけで、頤髯《あごひげ》はまばらで楔《くさび》がたをしている。その笑みを浮かべた唇は、二本の紐かなんぞのように細い。鼻は長いというよりは、鳥の嘴《くちばし》のように鋭くとがっている。
『どの点から見ても、意地悪で、高慢ちきな老爺だ』そういう考えがミウーソフの頭を掠《かす》めた。概して彼は非常に不機嫌であった。
 時計が打ち出して話のいとぐちをつくった。分銅《ふんどう》のついた安ものの小さな掛け時計が、急調子でかっきり十二
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