、どうやら宗派分裂よりよほど前に描かれたものらしい。その前には燈明がとぼっている。そのかたわらには金色燦然《こんじきさんぜん》たる聖飾をつけた聖像がもう二つ、またそのぐるりには作りものの第一天使《ケルピム》やら陶器の卵やら、『嘆きの聖母』に抱かれた象牙《ぞうげ》製のカトリック式十字架やら、前世紀のイタリアの名画から複製した、舶来の版画やらがあった。こうした優美で高価な版画のほかに、聖徒や殉教者《じゅんきょうしゃ》や僧正などを描いた、どこの定期市でも三カペイカか五カペイカで売っている、きわめて稚拙なロシア出来の石版画が、幾枚も麗々しく掲げてある。また現在や過去のロシアの主教の肖像を石版にしたものも少し掛かっていたが、それはもう別の壁であった。ミウーソフはこういう『繁文褥礼《はんぶんじょくれい》』にさっとひとわたり目を通してから、じっと執拗《しつよう》な凝視を長老に投げた。彼は自分の見解を自負する弱点を持っていた。もっとも、これは彼の五十という年齢を勘定に入れれば、たいてい許すことのできる欠点である。実際、この年配になると、賢い、世慣れた、生活に不自由をしない人は、誰でもだんだん自分という
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