教えてくださいました、それは初め二つは早目にたたいて、それからちょっと間をおいてもう一つずっと強く、どんとたたくのでございます、すると旦那は何か急な事があったので、わたくしがぜひ旦那にお目にかからなくちゃならないのだとお察しになって、やはりすぐ扉をあけてくださいます、そこで、わたくしは中へはいって、お知らせするという手はずでございます、これは、アグラフェーナ・アレクサンドロヴナが自身でお見えにならないで使いで何かお知らせになる場合の用心でございます、それに、ドミトリイ・フョードロヴィッチもやはりおいでになるかもわかりませんから、あのかたが近くへ来ていらっしゃるということを旦那にお知らせしなければなりません、旦那はたいへんドミトリイ・フョードロヴィッチをこわがっておいでになりますから、たとえアグラフェーナ・アレクサンドロヴナがおいでになって、旦那といっしょに部屋の中へ閉じこもっていらっしゃるときでも、ドミトリイ・フョードロヴィッチが近くへ姿をお見せになりましたらわたくしはすぐ戸を三つたたいて、ぜひそれをお知らせしなければなりません、こういう風に五度たたくほうの合い図は『アグラフェーナ・アレクサンドロヴナがおいでになりました』ということで、もう一つの三度たたくのほうの合い図は『急用です』というわけなのでございます、これは旦那が御自分で幾度もまねをして、よく説明して教えてくだすったのでございます、こういうわけで世界じゅうにこの合い図を知っておるのは、わたくしと旦那と二人きりでございますから、旦那はちっとも疑ったり、声を立てたりなさらないで(旦那は声を立てることをひどく恐れていらっしゃいますので)、そっと扉をあけてくださいます、この合い図が今はドミトリイ・フョードロヴィッチに知れてしまっているのでございますよ」
「どうして知れてしまったんだ? 貴様が告げ口をしたのじゃないか? どうしてそんな大それたことをしたんだ?」
「恐ろしいからでございますよ、それにどうしてわたくしがあの人に隠しおおせるものですか? ドミトリイ・フョードロヴィッチは毎日のように、『貴様はおれをだましてるんじゃないか? 何かおれに隠してるんじゃないか? そんなことをしたら貴様の両足をたたき折ってやるから!』ておどしなさるじゃありませんか、そこでわたくしはあの人にこの秘密をお知らせしたのです、つまりそれで、わたくしの奴隷のような服従を見ていただいて、わたくしがけっして嘘《うそ》を申すどころか、かえって何もかもお知らせしている、ということを信じていただくためにでございますよ」
「もし、兄貴がその合い図を利用して押し入りそうだなと思ったら、貴様が入れないようにしなけりゃあならんぞ」
「そりゃ、わたくしにしても、お兄さんが自暴《やけ》になっておられることは承知していますから、無理にもお通しすまいと思いましたところで、もしわたくしが発作で倒れていましたら、なんともしかたがないではございませんか」
「ちぇっ、勝手にしろ! どうして貴様はまた、発作が起こることに決めてやがるんだ、本当に糞《くそ》! いったい貴様はこのおれをからかっているのか、どうだ?」
「どうしてあなたをからかうなんて、そんな大それたことができましょう、第一こんな恐ろしいことを眼の前に控えていて、冗談どころじゃございませんよ、なんだか癲癇《てんかん》が起こりそうな気がします、そんな気がするのでございます、恐ろしいと思うだけでも起こりますよ」
「ちぇっ、畜生め! 明日貴様が寝こめば、グリゴリイが見張りをするよ、前からあれにそう言っといたら、あれならけっして兄貴を入れやしないぞ」
「どんなことがあっても、旦那のお許しがない以上、あの合い図をグリゴリイ・ワシーリエヴィッチに知らせるなんていうわけにはまいりませんよ、それにグリゴリイ・ワシーリエヴィッチがお兄さんのおいでを聞きつけて、入れないようにするだろうとおっしゃいますけれど、あの人はなにしろ昨日からかげんが悪くて、明日マルファ・イグナーチエヴナが療治をすることになっておるのです、さきほどそんな相談をしていました、なんでもその療治はずいぶんおもしろいことをするのですよ、マルファ・イグナーチエヴナはある浸酒《しんしゅ》を知っていていつも絶やさぬようにしまっておりますが、何かの草から採った強いやつで、あの女《ひと》はその秘法を知っているのでございます、グリゴリイ・ワシーリエヴィッチは年に三度ほど中風《ちゅうぶう》かなんぞのように、腰が抜けてしまいそうなほど痛むのです、そんなときこの侵酒で療治します、なんでも年に三度くらいのものでございます、そのおりマルファ・イグナーチエヴナはこの侵酒で手拭いを濡《ぬ》らして、半時間ばかり病人の背中じゅうを、からからになって赤く腫《は》れ
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