繧ェるまでこするのでございます、そして何かお呪《まじな》いを唱えながら、びんに残っている侵酒を病人に飲ませます、もっとも、すっかりではございません、そんなときにはいつも少々残しておいて、自分でも飲むのでございます、そうして二人とも、酒のいけぬ人が酔っ払ったように、そのままそこに倒れてしまって、かなり長いあいだぐっすり寝こむのでございますよ、グリゴリイ・ワシーリエヴィッチは眼をさませば、いつも病気がなおっていますが、マルファ・イグナーチエヴナは眼をさました後できまって頭痛がするのでございます、こういうわけでして、もしマルファ・イグナーチエヴナが明日本当に療治をすれば、あの夫婦が何か物音を聞きつけて、ドミトリイ・フョードロヴィッチを入れないようにするなぞということは、どうもおぼつかない話でございますよ、きっと寝こんでしまいますから」
「なんというばからしい話だ! 何もかもわざとのように、重なり合うじゃないか、貴様は癲癇《てんかん》を起こすし、グリゴリイ夫婦は覚えなしに寝てしまうなんて!」とイワン・フョードロヴィッチは叫んだ、「ひょっと貴様がわざとそんな段取りにしくもうってんじゃないかい?」不意に彼はこう口をすべらして、険しく眉《まゆ》をひそめた。
「どうしてわたくしが、そんな段取りなんかしくみましょう……それに、何もかもドミトリイ・フョードロヴィッチのお考え一つで、どうともなるというやさきに、なんのためにそんなことをいたしましょう……あの人が何かしでかそうとお思いになれば、何もかもそのとおりにしでかしなさるのでございますよ、本当にめっそうもない、わたくしがあの人の手引きをして、旦那の所へ踏みこませるなんて、そんなことがあってよいものですか」
「じゃ、なんのために兄貴が親爺《おやじ》の所へやって来るんだ、それもこっそりやって来るなんて? アグラフェーナ・アレクサンドロヴナはけっしてここへやって来やしないと、貴様自身言ってるじゃないか」と、イワン・フョードロヴィッチは憤りのために顔色を変えて語をついだ、「貴様の口からもそれを聞くし、僕もここに滞在しているあいだにちゃんと見抜いてしまったんだが、親爺はただ夢を見ているだけで、あの淫売女《じごく》はけっしてやって来やしないんだ、あの女が来もしないのに、なんのために兄貴が親爺の所へあばれこむんだ、さあ言ってみろ! 僕は貴様の肚《はら》の中が知りたいんだ」
「なんのためにいらっしゃるかは、御自分で御承知でございましょう、わたくしの肚の中などを詮索《せんさく》なさることはございますまいよ、お兄さんはただ腹立ちまぎれにもいらっしゃいましょうし、もしわたくしが病気でもすれば、あの疑ぐり深い御性分のことですから、もしやという心をお起こしになって、昨日のように我慢しきれなくなって、部屋の中まで捜しにいらっしゃるかもしれませんよ――もしやあの女が自分に隠れてはいりこんでやしないかとお思いになって。そのうえお兄さんはフョードル・パーヴロヴィッチのところに、三千ルーブルのお金を入れた大きな封筒が、ちゃんと用意してあることも、やっぱり御存じになっています、その封筒を三つとも封印をした上に紐《ひも》でゆわえて、『わが天使なるグルーシェンカへ、もしわがもとに来たりなば』と御自分の手でお書きになったのですが、それから二、三日たってまた『ひな鳥へ』と書き添えられました、これがそもそも疑わしいのでございますよ」
「くだらないことだ!」イワン・フョードロヴィッチはほとんどわれを忘れてどなった。「ドミトリイは金を盗むような男じゃない、おまけに、そのついでに親爺を殺すなんてはずはない、昨日のような場合には、癇癪《かんしゃく》もちのばかが夢中になったことだから、グルーシェンカのために親爺を殺すようなことがあるが、強盗なんぞに出かけてたまるものか!」
「でも、あのかたは今、非常にお金の入用に迫られていらっしゃいますよ、イワン・フョードロヴィッチ、どんなにお困りになっているか、あなたは御存じないのでございましょう」スメルジャコフはどこまでも落ち着き払って、いちじるしくはっきりした調子でこう説明した。「そのうえ、お兄さんはその三千ルーブルの金を、まるで自分のものかなんぞのように思っていらっしゃいます、『親爺はまだちょうど三千ルーブルだけおれに支払う義務があるのだ』と御自分の口からわたくしにおっしゃいました、それにイワン・フョードロヴィッチ、もう一つ確かな真理があるのですよ、ようく御自分で判断して御覧なさいまし、これはほとんど間違いのない話ですが、アグラフェーナ・アレクサンドロヴナは、自分でその気にさえなられるなら、わけなくあのかたを――つまりフョードル・パーヴロヴィッチをまるめこんで結婚してしまいますよ、それに旦那のほうだって案外その
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