れわれは彼らに罪悪をも許してやる。彼らは弱々しい力ない者だから、罪を犯すことを許してやると、子供のようにわれわれを愛するようになる。どんな罪でもわれわれの許しさえ得て行なえばあがなえる、とこう彼らに言い聞かせてやる。罪悪を許してやるのは、われわれが彼らを愛するからだ。その罪悪に対する応報は、当然われわれ自身で引き受けてやるのだ。そうしてやると、彼らは神様に対して自分たちの罪を引き受けてくれた恩人として、われわれをますます崇めるようになる。したがってわれわれに何一つ隠しだてをしないようになる。彼らが妻の他に情婦と同棲《どうせい》することも、子供を持つことも、持たぬことも、すべては彼らの従順であるか従順でないか、したがって、許しもすれば、とがめもする。こうして彼らは楽しく喜ばしくわれわれに服従してくるのである。最も悩ましい良心の秘密も、それから――いや、何もかも、本当に何もかも、彼らはわれわれのところへ持って来る。するとわれわれはいっさいのことを解決してやる。この解決を彼らは喜んで信用するに違いない。というのは、それによって大きな心配を免れることもできるし、今のように自分で勝手に解決するという恐ろしい苦痛を免れることができるからだ。かくてすべての者は、幾百万というすべての人類は幸福になるだろう。しかし、彼らを統率する十数万の者は除外されるのだ。すなわち、秘密を保持しているわれわれのみは、不幸に陥らねばならぬのだ。何億かの幸福な幼児と、何万人かの善悪の知識ののろいを背負うた受難者ができるわけだ。彼らはおまえの名のために静かに死んでゆく、静かに消えてゆく。そうして、棺《かん》のかなたにはただ死以外の何ものをも見いださないだろう。しかも、われわれは秘密を守って、彼ら自身の幸福のために、永遠の天国の報いを餌《えさ》に彼らを釣っていくのだ。なぜといって、もしあの世に何かがあるにしても、とうてい彼らのごとき人間に与えられるはずはないからだ。人の話や予言によると、おまえは再びこの世へやって来るそうだ。再びすべてを征服して、選ばれたる人や、誇りと力を持った者を連れてやって来るそうだ、けれどわれわれはこう言ってやる――彼らはただ自分を救ったばかりだが、われわれはすべての者を救ってやった、とな。またこんな話もある。やがてそのうちにいくじのない連中がまたもや蜂起《ほうき》して、獣の上にまたがって、※[#始め二重括弧、1−2−54]秘密※[#終わり二重括弧、1−2−55]を手にした姦婦《かんぷ》の面皮を引っ剥《ぱ》がし、その紫色のマントを引き裂いて、※[#始め二重括弧、1−2−54]醜い体※[#終わり二重括弧、1−2−55]を裸にするということだ。もっとも、その時はわしが立ち上がって、罪を知らぬ何億という幸福な幼児を、おまえに指さして見せてやる。彼らの幸福のために彼らの罪を一身に引き受けたわれわれは、おまえの行く手に立ちふさがって、※[#始め二重括弧、1−2−54]さあできるものならわれわれをさばいてみろ※[#終わり二重括弧、1−2−55]と言ってやる。いいかえ、わしはおまえなんぞを恐れはしないぞ。いいかえ、わしもやはり荒野へ行って、いなごと草の根で命をつないだことがあるのだぞ。おまえは自由をもって人間を祝福したが、わたしもその自由を祝福したことがあるのだ。わしも※[#始め二重括弧、1−2−54]数の埋め合わせ※[#終わり二重括弧、1−2−55]をしたいという渇望のために、おまえの選ばれたる人々の仲間へ――偉大なる強者の仲間へはいろうと思ったこともある。しかしあとで眼がさめたから、気ちがいに仕えることが嫌になったのだ。それでまた引き返して、※[#始め二重括弧、1−2−54]おまえの[#「おまえの」に傍点]仕事を訂正した※[#終わり二重括弧、1−2−55]人々の群れに投じたのだ。つまり、わしは傲慢《ごうまん》な人々のかたわらを去って、謙遜《けんそん》な人々の幸福のために、謙遜な人々のところへ帰って来たのだ。今にわしの言ったことは実現されて、われわれの王国は建設されるだろう。くり返して言うが、明日はおまえもその従順な羊の群れを見るだろう。彼らは、わしがちょっと手で合い図をすれば、われがちにおまえを焼く炬火へ炭を掻《か》きこむことだろうよ。それはつまり、おまえがわれわれの邪魔をしに来たからだ。実際、もし誰か、最もわれわれの炬火に焼かれるにふさわしい者があるとすれば、それはまさしくおまえだ。明日はおまえを焼き殺してくれるぞ。Dixi(これでおしまいだ)』」
 イワンは口をつぐんだ。彼は話しているうちにすっかり熱して、酔ったようになって話を続けたが、語り終わった時、不意ににやりとした。
 黙々としてずっと聞き入っていたアリョーシャは、しまいには異常な興奮を覚えて
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