孟宗と七面鳥
北原白秋
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)秀《ほ》さき
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閑雅な孟宗の枯れ色は私にとつて何より親しく感じられる。私は階上の書斎から硝子戸越しに朝夕その眺めを楽しんでゐる。どの窓を眺めても孟宗がしだれてゐる。寒くて風の少ない日などはその揺れる秀《ほ》さきばかりがこまかな光りを反《かへ》してゐる。
聖ヶ獄にも斑ら雪が残つてゐる。庭の寒枇杷も冷《ひ》えきつてよい。時とすると、思ひもかけず、ちらちらと牡丹雪がふつてくる。さうしたしつとりとした曇り日もうれしい。
私の家は半潰れのままだが二階だけはどうにか住めるのである。ほとんど廃墟とも云つてよいこの家の生活も住み馴れて見るといよいよに執着が増す。やはりここに落ちついて、しづかな詩作生活に耽らう。
先達つての再度の大震では、もう潰れることと思つたし、命もないものと観念してゐたが、どうやら無事に済んだ。よくも此の壊れ家が倒れないものである。
晴れた日には、大概私たちは庭前の小卓で食事をする。時とすると隣の別荘の芝山へ行つて、のびのびと酒を温めたり茶を立てたりする。箱根の連山や相模灘の大
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