景を展望して、私達は食後も日向ぼつこをする。隣の白孔雀のやうな七面鳥が、番ひで、私たちのまはりを求食《あさ》つてあるく。かうした楽しみは壊れ家に住む私たちで無ければ味はへまい。まことに長閑な日常である。
 七面鳥と云へば、つい二三日前、犬に噛み殺されて了つた。まつしろで、実にすがすがしい番ひであつたが、可哀相なことをして了つた。この頃はよく馴れて、私の庭にも遊びに見えた。朝などは入口から傲然と羽根を拡げて、食堂の土間にはいつて来る。すると私たちは椅子から立ち上つて最敬礼をする。『まあまあ、どうぞこちらへ。』

 もひとつをかしい小話がある。東宮殿下の御慶事の朝のことである。私たちも枇杷の木の下の小卓で、つつましい祝杯を挙げた。済んでから坊やだけ地面に坐つて遊んでゐたが、そこへ七面鳥がおそろひで堂堂とやつて来た。伯爵夫人と云つた風である。しばらくすると、坊やが『どうぞ、どうぞ。』と云つてゐる。何をしてゐるのかと、硝子扉から覗いて見ると、坊やはその伯爵様に、仰向いて、しきりに盃をさしつけてゐるのであつた。

 その七面鳥も殺されて了つた。隣の監督さんがその赤い肉を盛つて来た。流石に寂しさう
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