から微風《そよかぜ》入れて、
煙草吹かして、夕日を入れて、
知らぬ顔して、さしむかひ、――
下ぢや、ちよいと出す足のさき
ついと外《そら》せばきゆつと蹈む、――
雲のためいき、白帆のといき
河が見えます、市川が。
汽車はゆくゆく、――空飛ぶ鳥の
わしとそなたは何処までも。[#地から3字上げ]四十五年四月

  梨の畑

あまり花の白さに
ちよつと接吻《きす》をして見たらば、
梨の木の下に人がゐて、
こちら見ては笑うた。
梨の木の毛虫を
竹ぎれでつつき落し、
つつき落し、
のんびり持つた*喇叭で
受けて廻つては笑うた、
しよざいなやの、
梨の木の畑の
毛虫採のその子。
[#ここから2字下げ]
* 紙製の喇叭見たやうなもの
[#ここで字下げ終わり]
[#地から3字上げ]四十五年四月

  河岸の雨

雨がふる、緑いろに、銀いろに、さうして薔薇《ばら》いろに、薄黄に、
絹糸のやうな雨がふる、
うつくしい晩ではないか、濡れに濡れた薄あかりの中に、
雨がふる、鉄橋に、町の燈火《あかり》に、水面に、河岸《かし》の柳に。

雨がふる、啜泣きのやうに澄《す》みきつた四月の雨が
二人のこころにふりしきる
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