顔《まじめがほ》、
ふたつ並べたその鼻の孔《あな》に、眇眼《すがめ》に、まだ歯も生えぬ
ただ揉《も》みくちやの泣面《なきつら》のべそかき小僧が口の中《うち》
蒸気|噴《ふ》きつけ、驀進《まつしぐら》、パテー会社の映画《フイルム》の中の
汽車はゆくゆく、――空飛ぶ鳥の
わしとそなたは何処《どこ》までも。

汽車はゆくゆく、二人を乗せて、
広い野原をひとすぢに。
ひとりそはそは、くるりくるくる、水車《みづぐるま》
廻る畑《はたけ》のどぶどろに、
葱のあたまがとんぼがへりて泳ぎゆく、
ちびの菜種の真黄《まつき》いろ
堀に曳きずる肥舟《こえぶね》の重い小腹にすられゆく。
さても笑止や、垣根のそとで
障子張るひと、椿の花が上に真赤に輝けば
張られた障子もくわつと照る、
烏勘左衛門、烏啼かせてくわつと吹く
よかよか飴屋のちやるめらも
みんなよしよし、粉嚢《こなぶくろ》やつこらさと担《かつ》いで、
禿げた粉屋《こなや》も飛んでゆく。
蒸気|噴《ふ》き噴き、斜《はすかひ》に
汽車はゆくゆく……椿が光る。
わしとそなたは何処《どこ》までも。

汽車はゆくゆく二人を乗せて
空のはてまでひとすぢに。
硝子窓
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