、黄いろ、いつかゆめ見た風も吹く。
道化男がいふことに
「もしもし淑女《レデイ》、とんぼがへりを致しませう、
美くしいオフエリヤ様、
サロメ様、
フランチエスカのお姫様。」
白い眼をしたちび男、
「一寸、先生、心意気でもうたひやせう」
俄盲目《にわかめくら》も後《うしろ》から
「旦那様や奥様、あはれな片輪で御座います、
どうぞ一文。」
春はうれしと鳥も鳴く。
夫人《おくさん》、
美くしい、かはいい、しとやかな
よその夫人《おくさん》、
御覧なさい、あれ、あの柳にも、サンシユユにも
黄色い木の芽の粉《こ》が煙り、
ふんわりと沁む地のにほひ。
ちいちいほろりと鳥も鳴く、
空に黄色い雲も浮く。
夫人《おくさん》。
美くしい、かはいい、しとやかな
よその夫人《おくさん》、
それではね、そつとここらでわかれませう、
いくら行《い》つてもねえ。
黄色、黄色、意気で高尚《かうと》で、しとやかな、
茴香《うゐきやう》のいろ、卵いろ、
「思ひ出」のいろ、
好きな児猫の眼の黄いろ、
浮雲のいろ、
ほんにゆかしい三味線の、
ゆめの、夕日の、音《ね》の黄色。
[#地から3字上げ]四十五年三月
汽
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