出※[#「窗/心」、第3水準1−89−54]の白いフリジアに、髄の髄まで
くわつと照る、照りかへす。真黄な光。
真黄色だ真黄色だ、電線《でんせん》から
忍びがへしから、庭木から、倉の鉢まきから、
雨滴《あまだれ》が、憂欝が、真黄に光る。
黒猫がゆく、
屋根の廂《ひさし》の日光のイルミネエシヨン。
ぽたぽたと塗りつける雨、
神経に塗りつける雨、
霊魂の底の底まで沁みこむ雨
雨あがりの日光の
欝悶の火花。
真黄《まつき》だ……真黄《まつき》な音楽が
狂犬のやうに空をゆく、と同時に
俺は思はず飛びあがつた、驚異と歓喜に
野蛮人のやうに声をあげて
匍ひまはつた……真黄色な灰色の室を。
女には児がある。俺には俺の
苦しい矜がある、芸術がある、而して欲があり熱愛がある。
古い土蔵の密室には
塗りつぶした裸像がある、妄想と罪悪と
すべてすべて真黄色だ。――
心臓をつかんで投げ出したい。
雨が霽れた。
新らしい再生の火花が、
重い灰色から変つた。
女は無事に帰つた。
ぽたぽたと雨だれが俺の涙が、
真黄色に真黄色に、
髄の髄から渦まく、狂犬のやうに
燃えかがやく。
午後五時半。
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