四月」のしのびあし、
過ぎて消えゆく日のうれひ。
[#地から3字上げ]四十四年四月

  涙

蒼ざめはてたわがこころ、
こころの陰《かげ》のひとすぢの
神経の絃《いと》そのうへに、
薄明《ツワイライト》のその絃《いと》に、

薄明《ツワイライト》のその絃《いと》に、
ちらと光りて薄青く、
踊るものあり、豆のごと……
雨は涙とふりしきる。

見れば小さな緑玉《エメラルド》、
ひとのすがたのびいどろの、
頬にも胸にもふりしきる、
涙……かなしいその眼つき。

声もえたてぬ奇《あや》しさは
夜半《よは》に「秘密」の抜けいでて、
所作《しよさ》になげくや、ただひとり、
パントマイムの涙雨。

月の出しほの片あかり、
薄き足もつびいどろの、
肩に光れどさめざめと、
歎き恐れて、夜も寝ねず。

金《きん》のピアノの鳴るままに、
濡れにぞ濡るれすべもなく、
神経の上、絃《いと》のうへ、
雨は涙とふりしきる。[#地から3字上げ]四十四年十月

  新生

新らしい真黄色《まつきいろ》な光が、
湿《しめ》つた灰色の空――雲――腐れかかつた
暗い土蔵の二階の※[#「窗/心」、第3水準1−89−54]に、
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