その芽の黄《きな》さ、新らしさ……
庭の井戸から水揚げて、
しみじみと撰《え》る手のさばき、
見るもさみしや、ふる雨に。
ひとりは庭のかたすみに、
印半纏着てかがみ、
ひとりはほそき角柱《かくばしら》、
しんぞ寥《さみ》しう手をあてて、
朝のつかれの身をもたす
古い宿場の青楼《かしざしき》。
しとしとしととふる雨に
柱時計の羅馬字も
蓋《ふた》も冷《つめ》たし、しらじらと
針の※[#ローマ数字4、1−13−24]を差すその面《おもて》。
ひとりはさらに水あげて、
さつと蕨の芽にそそぎ、
ひとりはじつと眼をふせて、
楊枝《やうじ》つかへり弊私的里《ヒステリー》の
朝のつかれの身だしなみ。
空と海との燻《いぶ》し銀《ぎん》、
けふの曇りにふる雨は
それは涙のしのびあし、
青い台場の草の芽に
沁《し》みて「四月」も消えゆくや、
帆かけた船も、白鷺も
ましてさみしやふる雨に。
もののあはれにふる雨は、
さもこそあれや、早蕨《さわらび》の
その芽に茎に渦巻きて
はやも「五月」は沁《し》むものを
なにかさみしきそのおもひ。
春と夏とのさかひめに
生絹《きぎぬ》めかしてふる雨は
それは「
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