」、第3水準1−85−84]子《さんざし》の芽もこわごわと
泥にまみるる。立ちばなし。
雨はふる。しつかと握る水薬の黄色の罎の鮮やかさ。
「阿魔《あま》つ子《こ》がね昨夜《ゆんべ》さ、
いいらぶつ吃驚《たま》げた真似《まね》仕出《しで》かし申してのお前《まへ》さま。」
雨はふる。光《ひか》つては消《き》ゆる、剃刀《かみそり》で
咽喉《のど》を突いた女の頬。
「だけんどどうかかうか生きるだらうつて、
医者どんも云やんしたから。」まづは安心と軍鶏屋《しやもや》の小父《をぢ》さん
胸をさすればキヤベツまで
ほつと息する葉の光。
鳥が鳴いてる……冬もはじめて真実《しんじつ》に
雨のキヤベツによみがへる。
濡れにぞ濡れて、真実に
色も匂もよみがへる。
新らしい、しかし、冷《つめ》たい朝の雨、
キヤベツ畑の葉の光。
雨はふる。生きて滴《したゝ》る乳緑の
キヤベツの涙、葉のにほひ。
[#地から3字上げ]四十四年一月
蕨
春と夏とのさかひめに
生絹《きぎぬ》めかしてふる雨は
それは「四月」のしのびあし、
過ぎて消えゆく日のうれひ。
蕨の青さ、つつましさ、
花か、巻葉か、知らねども、
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