よりそひて、
ふる雪の幽かなるけはひにも涙ぐむ。
女はやはらかにうちうなづき、
湯沸《サモワル》のおもひを傾けて熱《あつ》き熱《あつ》き珈琲を掻きたつれば、
男はまた手をのべてそを受けんとす。
あたたかき暖炉はしばし息をひそめ、
ふる雪のつかれはほのかにも雨をさそひぬ。
遠き遠き漏電と夜の月光。
[#地から3字上げ]四十四年一月
キヤベツ畑の雨
冷《ひえ》びえと雨が、さ霧《ぎり》にふりつづく、
キヤベツのうへに、葉のうへに、
雨はふる、冬のはじめの乳緑の
キヤベツの列《れつ》に葉の列に。
あまつさへ、柵の網目の鉄条《はりがね》に
白い鳥奴《とりめ》が鳴いてゐる。
雨はふる、くぐりぬけてはいきいきと、
色と匂を嗅ぎまはる。
ささやかな水のながれは北へゆく。
キヤベツのそばを、葉のしたを、
雨はふる。路もひとすぢ、川下《かはしも》の
街《まち》も新らし、石の橋。
キヤベツ畑のあちこちに
かがみ、はたらき、ひとかかえ
野菜かついではしるひと、
雨はふる。けふもあをあを夏帽子。
小父《をぢ》さんが来る、真蒼《まつさを》に、脚《あし》も顫へて、
お早うがんす。山※[#「木+査
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