な三味線が、
あれ、もう消えて了つた、鳴いたのは水鳥かしら、
硝子を透してごらん、小さな赤い燈が
ゆつくらと滑つてゆく、河上の方に
紀州の蜜柑でも積んで来たのかしら……
何だか船から喚《よ》んでるやうな……
ひつそりとしたではないか、
もう一度、その薄い硝子からのぞいて御覧、
恐らく紺いろになつた空の下から、
遠見の屋根が書割のやうに
白く青く光つて
疲れた千鳥が静な水面に鳴いてる筈だ。
サラリとその硝子を開《あ》けて御覧……
スツカリ雪はやんで
星が出た、まあ何て綺麗だらうねえ、
あれ御覧、真白だ、真白だ。
まるでクリスマスの精霊のやうに、
ほんとに真白だねい。
[#地から3字上げ]四十四年十一月
冬の夜の物語
女はやはらかにうちうなづき、
男の物語のかたはしをだに聴き逃《のが》さじとするに似たり。
外面《そとも》にはふる雪のなにごともなく、
水仙のパツチリとして匂へるに薄荷酒《はつかさけ》青く揺《ゆら》げり。
男は世にもまめやかに、心やさしくて、
かなしき女の身の上になにくれとなき温情を寄するに似たり。
すべて、みな、ひとときのいつはりとは知れど、
互《かた》みになつかしく
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