へしの
つんと張つた鬢のうらから
肩から、タオルからすべつて消える。
ほうつほうつと。

さうではない、さうではない、
すらりとした両《ふた》つのほそい腕から、
手の指の綺麗な爪さきの線まで、
何かしら石鹸《シヤボン》が光つて見えるのだ、さうして
魔気のふかい女の素はだかの感覚から
忘れた夏の記憶が漏電する。
ほうつほうつと蛍が光る。
不思議な晩だ、まだ鋏を取つたまま
何時までも足の爪を剪《き》つてゐるのか、お前は
※[#「さんずい+自」、第3水準1−86−66]芙藍湯《サフランゆ》の[#「※[#「さんずい+自」、第3水準1−86−66]芙藍湯《サフランゆ》の」は底本では「泊芙藍湯《サフランゆ》の」]温かな匂から、
香料のやはらかななげきから、
おしろいから、
夏の日のあめも美しく
女は踊る、なつかしいドガの Dancer

雪がふる……降つてはつもる……
しめやかな悲しみのリズムの
しんみりと夜ふけの心にふりしきる……
ほうつほうつと、蛍が飛ぶ……
あれごらんな、綺麗だこと、
青、黄、緑、……さうしてうすいむらさき、
雪がふる……降つてはつもる……
そつとしておきき、何処かでしめやか
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