|Cafe'《カツフエ》〕 に Verlaine《ウエルレエヌ》 のあるごとく、
ことににくきは日光が等閑《なほざり》になすりつけたる
思ひもかけぬ、物かげの新しき土《つち》の色調。
またある草は白猫の柔毛《にこげ》の感じ忘れがたく、
いとふくよかに温臭《ぬるくさ》き残香《のこりが》の中に吐息しつ。
石鹸《シヤボン》の泡に似て小さく、簇《むらが》り青むある花は
ひと日|浴《ゆあ》みし肺病の女の肌を忍ぶごとく、
洋妾《らしやめん》めける雁来紅《けいとう》は
吸ひさしの巻煙草めきちらぼひてしみらに薫《く》ゆる
朝顔の萎《しぼ》みてちりし日かげをば見て見ぬごとし。
見よ、かかる日の真昼にして
気遣はしげに瞬《またた》ける瓦斯の火の病める瞳よ。
あるものは葱の畑より忍び来し下男のごとく、
またあるものは轢かれむとして助かりし公証人の女房が
甘蔗のなかに青ざめて佇むごとき匂しつ。
ことに正しきあるものはかかる真昼を
饐《す》え白らみたる鳥屋《とや》の外に交接《つが》へる鶏《とり》をうち目守《まも》る。
噫《ああ》、かかるもろもろの匂のなかにありて
薬草の香《か》はひとしほに傷《いた》ましきか
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