m書《ほん》の金字《きんじ》は時雨《しぐれ》の霊《たまし》、
〔Henri《アンリイ》 De《ド》 Re'gnier《レニエ》〕 が曇り玉《たま》、
息ふきかけてひえびえと
雨は接吻《きつす》のしのびあし、
さても緑の、宝石の、時計、磁石のわびごころ、
わかいロテイのものおもひ。
絶えず顫へていそしめる
お菊夫人の縫針《ぬいばり》の、人形ミシンのさざめごと。
雪の青さに片肌ぬぎの
たぼもつやめく髪の型《かた》、つんとすねたり、かもじ屋に
紺は匂ひて新らしく。
白いピエロの涙顔。
熊とおもちやの長靴は
児供ごころにあこがるる
サンタクロスの贈り物。
外《そと》はしとしと淡雪《うすゆき》に
沁みて悲しむ雨の糸。
雨は林檎の香のごとく
しみじみとふる、さくさくと、
扉《ドア》を透かしてふる雨は
Verlaine《ヴエルレエイヌ》 の涙雨、
赤いコツプに線《すぢ》を引く、
ひとり顫へてふりかくる
辛《から》い胡椒に線《すぢ》を引く、
されば声出す針の尖《さき》、蓄音器屋にチカチカと
廻るかなしさ、ふる雨に
酒屋の左和利、三勝もそつと立ちぎく忍び泣き。
それもそうかえ淡雪《うすゆき》の
光るさみ
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