驍竄、に
ひとり泣いてはたねを取る。
あかあかと空に夕日の消ゆるとき、
植物園に消ゆるとき。
[#地から3字上げ]四十三年十月
あかい夕日に
あかい夕日につまされて、
酔うて珈琲店《カツフヱ》を出は出たが、
どうせわたしはなまけもの
明日《あす》の墓場をなんで知ろ。
[#地から3字上げ]四十三年十月
[#改丁]
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銀座の雨
[#ここで字下げ終わり]
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銀座の雨
雨……雨……雨……
雨は銀座に新らしく
しみじみとふる、さくさくと、
かたい林檎の香のごとく、
舗石《しきいし》の上、雪の上。
黒の山高帽《やまたか》、猟虎《ラツコ》の毛皮、
わかい紳士は濡れてゆく。
蝙蝠傘《かうもり》の小さい老婦も濡れてゆく。
……黒の喪服と羽帽子《はねばうし》。
好《す》いた娘の蛇目傘《じやのめがさ》。
しみじみとふる、さくさくと、
雨は林檎の香のごとく。
はだか柳に銀緑《ぎんりよく》の
冬の瓦斯|点《つ》くしほらしさ、
棚の硝子にふかぶかと白い毛物の春支度。
肺病の子が肩掛の
弱いためいき。
波斯《ペルシヤ》の絨氈《じゆたん》、
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