白nから3字上げ]四十四年十一月

  もしやさうでは

もしやさうではあるまいかと
思うても見たが、
なんの、そなたがさうであろ、
このやうなやくざにと、――
胸のそこから血の出るやうな
知らぬ偽《いつはり》いうて見た。

雪のふる日に
赤い酒をも棄てて見た。
知らぬふりして、
ちんからと
鳴らしたその手でさかづきを。
[#地から3字上げ]四十四年十一月

  片足

花が黄色で、芽がしよぼしよぼで、
見るも汚《きた》ない梅の木に
小鳥とまつて鳴くことに、――
あれ、あの雪の麦畑《むぎばた》の、つもつた雪のその中に、
白い女の片足が指のさきだけ見えて居る。

はつと思つて佇めば、
小鳥逃げつつ鳴くことに、――
何時《いつ》か憎いと思うたくせに、
卑怯未練な、安心さしやれ、
あれは誰かの情婦《いろ》でもなけりや、
女乞食の児でもない。
一軒となりの杢右衛門《もくよむ》どんの
唖の娘が投げすてた白い人形の片足ぢや。
[#地から3字上げ]四十四年十二月

  あらせいとう

人知れず袖に涙のかかるとき、
かかるとき、
ついぞ見馴れぬよその子が
あらせいとうのたねを取る。
丁度誰かの為《す》
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