ゆあ》みする女子のにほひのごとく、
暮れてゆく、ほの白き露台《バルコン》のなつかしきかな。
黄昏《たそがれ》のとりあつめたる薄明《うすあかり》
そのもろもろのせはしなきどよみのなかに、
汝《な》は絶えず来《きた》る夜《よ》のよき香料をふりそそぐ。
また古き日のかなしみをふりそそぐ。

汝《な》がもとに両手《もろて》をあてて眼病の少女はゆめみ、
欝金香《うこんかう》くゆれるかげに忘られし人もささやく、
げに白き椅子の感触《さはり》はふたつなき夢のさかひに、
官能の甘き頸《うなじ》を捲きしむる悲愁《かなしみ》の腕《かひな》に似たり。

いつしかに、暮るとしもなき※[#「窗/心」、第3水準1−89−54]あかり、
七月の夜《よる》の銀座となりぬれば
静こころなく呼吸《いき》しつつ、柳のかげの
銀緑の瓦斯《ガス》の点《とも》りに汝《なれ》もまた優になまめく、
四輪車の馬の臭気《にほひ》のただよひに黄なる夕月
もの甘き花《はな》※[#「木+危」、第4水準2−14−64]子《くちなし》の薫《くゆり》してふりもそそげば、
病める児のこころもとなきハモニカも物語《レヂエンド》のなかに起りぬ。
[#地か
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