くつの
そのひとつ青うきしろひ、
神経《しんけい》の衰弱《つかれ》にぞ絶間《たえま》なく電車過ぎゆき、
正面《まとも》なる新橋《しんばし》の天鵝絨《びろうど》の空《そら》の深みに
さまざまの電気燈《でんき》の装飾《かざり》、
そを脱《ぬ》けて紫の弧燈《アアクとう》にほやかにひとつ湿《しめ》れる。
あはれ、あはれ、爛壊《らんゑ》のまへの官能《くわんのう》のイルユミネエシヨン。

しかはあれども、
湿潤《しめり》ふかき藍色《あゐいろ》の夜《よ》の暗《くら》さ……
溝渠《ほりわり》の闇《やみ》の中《うち》病院《びやうゐん》の舟は消えゆき、
青白き胞衣会社《えなぐわいしや》にほふあたりに、
整《ととの》はぬ鶯ぞしみらにも鳴きいでにける。
[#地から3字上げ]四十二年三月

  片恋

あかしやの金《きん》と赤とがちるぞえな。
かはたれの秋の光にちるぞえな。
片恋《かたこひ》の薄着《うすぎ》のねるのわがうれひ
「曳舟《ひきふね》」の水のほとりをゆくころを。
やはらかな君が吐息《といき》のちるぞえな。
あかしやの金と赤とがちるぞえな。
[#地から3字上げ]四十二年十月

  露台

やはらかに浴《
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