tひ顔《かほ》の寥《さみ》しい、
どうしたことやら、
白粉《おしろい》もまだつけぬ青《あを》いいろの、
なつかしい眼《め》つきの女《をんな》、
疲《つか》れたやうに、藍色《あゐいろ》の薄《うす》いネルを着《き》ながして
新造《しんぞう》と二人《ふたり》、
――ひとりは立膝――
華魁《おいらん》は灯《ひ》のつかぬ五時《ごじ》ごろの
薄暗《うすぐら》い角店《かどみせ》の二重《にぢゆう》に腰《こし》かけて、
何《なに》とやら澄《す》まぬ顔《かほ》、
左《ひだり》の人《ひと》さし指《ゆび》の薄《うす》い繃帯《ほうたい》に
金《きん》いろの背後《うしろ》の附立《ついたて》が、
支那彫《しなぼり》の唐獅子《からしし》の、
冷《つめ》たい光《ひかり》を投《な》げかくる。
そのさだまらぬ陰影《かげ》のかげの
そのなかの幽《かす》かなためいき……

[#ここから横組み]“Chonkina! Chonkina! ……”[#ここで横組み終わり]


格子戸越《かうしどご》しに、赤《あか》い日《ひ》が
高《たか》い屋並《やなみ》の不思議《ふしぎ》な廂《ひさし》にてりかへし、
洪水《こうすゐ》の音《おと》がきこ
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