ュろひえ》の種。
パツチパツチと鳴く虫の
昼のさびしさやるせなさ。……
常に啄《つ》まれて生れ得ぬ種の、嬰児《あかご》の、なげく音。
妻も子もない醜男《ぶをとこ》の
何時《いつ》も吝嗇《つまし》い権兵衛が
貧《ひん》の盗みか、一擁《ひとかゝ》え
葱を伏せつつ、怖々《こは/″\》と畝《うね》の凸《たか》みを凝視《みつ》めゆく、
伏せたこころに蒔く種は
かなしみの種、性《せい》の種、黒稗《くろひえ》の種。
パツチパツチと鳴く虫の
昼のさびしさおそろしさ。……
黒い眼玉が背後《うしろ》からぢつと睨んで歩む音。
欲《よく》のつかれか、冷汗《ひやあせ》か、
金が唸《うな》れば権兵衛の
野暮《やぼ》な胸さへしみじみと、
金《きん》の入日の凌雲閣《じふにかい》傷《いた》みながらに蒔いてゆく。
けふの恐怖《おそれ》に蒔く種は
かなしみの種、性《せい》の種、黒稗《くろひえ》の種。
パツチパツチと鳴く虫の
昼のさびしさ、情《なさけ》なさ。……
黒い鴉《からす》につぶされて種の凡《すべて》の滅《き》ゆる音。
[#地から3字上げ]四十三年十月
忠弥
雪はちらちらふりしきる。
城の御濠《おほ
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