烽閨tさしてゆく、
瀟洒にわかき姿かな。「秋」はカフスも新らしく
カラも真白につつましくひとりさみしく歩み来ぬ。
波うちぎはを東京の若紳士めく靴のさき。
午前十時の日の光海のおもてに広重《ひろしげ》の
藍を燻《いぶ》して、虫のごと白金《プラチナ》のごと閃めけり。
かろく冷《つめ》たき微風《そよかぜ》も鹹《しほ》をふくみて薄青し、
「秋」は流行《はやり》の細巻の
黒の蝙蝠傘さしてゆく。
日曜の朝、「秋」は匂ひも新らしく
新聞紙折り、さはやかに衣嚢《かくし》に入れて歩みゆく、
寄せてくづるる波がしら、濡れてつぶやく銀砂の、
靴の爪さき、足のさき、パツチパツチと虫も鳴く。
「秋」は流行《はやり》の細巻の
黒の蝙蝠傘さしてゆく。[#地から3字上げ]四十四年十月
[#改丁]
[#ここから5字下げ、ページの左右中央に]
槍持
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]
おかる勘平
おかるは泣いてゐる。
長い薄明《うすあかり》のなかでびろうど葵の顫へてゐるやうに、
やはらかなふらんねるの手ざはりのやうに、
きんぽうげ色の草生《くさぶ》から昼の光が消えかかるやうに、
ふわふわと飛んで
前へ
次へ
全96ページ中50ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
北原 白秋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング