ヘんしや》がうすれて
外光《ぐわいくわう》が青《あを》みを帯《お》びた。
煙突《えんとつ》から薄《うす》い煙《けぶり》がたなびき
畑々《はたけ/\》の葱《ねぎ》の尖頭《さき》には
銀色《ぎんいろ》の露《つゆ》が光《ひか》つてくる。
そしてなほ、湿《しめ》つた黒《くろ》い土《つち》のなかでは
寥《さび》しい虫《むし》が、
幽《かす》かな昼《ひる》の調子《てうし》で鳴《な》いてゐる。
寂しい寂しい寂しい畑。
[#地から3字上げ]四十三年一月
八月のあひびき
八月の傾斜面《スロウプ》に、
美くしき金《きん》の光はすすり泣けり。
こほろぎもすすりなけり。
雑草の緑《みどり》もともにすすり泣けり。
わがこころの傾斜面《スロウプ》に、
滑りつつ君のうれひはすすり泣けり。
よろこびもすすり泣けり。
悪縁《あくゑん》のふかき恐怖《おそれ》もすすり泣けり。
八月の傾斜面《スロウプ》に、
美くしき金《きん》の光はすすり泣けり。
[#地から3字上げ]四十三年八月
秋
日曜の朝、「秋」は銀かな具《ぐ》の細巻の
絹薄き黒の蝙蝠傘《かうもり》さしてゆく、
紺の背広に夏帽子、
黒の蝙蝠傘《かう
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