tと白の犬が
交《つる》んだまま葱《ねぎ》のなかにかくれてる。
眩《まぶ》しさうに首だけ覗《のぞ》いて
淀《よど》んだ瞳《ひとみ》に
何物《なにもの》をか恐《おそ》れてゐる。――
息《いき》がしづかに茎《くき》の尖頭《さき》を顫《ふる》はす。

何処《どこ》かで百舌《もず》が鳴きしきる。
疲《つか》れた、それでも放縦《ほしいまま》な
三十《さんじふ》過《す》ぎた病身《びやうしん》の女《をんな》らしい、
湯屋《ゆや》の硝子戸《がらすど》を出ると直《す》ぐ
石鹸《しやぼん》のにほひする身体《からだ》をかがめて
嬰児《あかんぼ》に小便《しつこ》をさしてる。

寥《さび》しい霊《たましひ》が鳴いてゐる。……

母《はは》の眼《め》と嬰児《あかんぼ》の眼《め》が
一様《いちやう》に白《しろ》い犬《いぬ》の耳《みみ》に注《そそ》がれる。
可愛《かあ》いいちんぽこから小便《しつこ》が出る。
その尿《ねう》と、濡《ぬ》れた西洋手拭《タヲル》と、束髪《そくはつ》と、
無意味《むいみ》な眼《め》つきと、白つぽい葱《ねぎ》の青《あを》みに、
しみじみと黄色《きいろ》な光《ひかり》がうつる。

しだいに反射《
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