驕t――ふる雨の黒いかがやき、
廃《すた》れたる橡《とち》の葉に古池に霊《たましひ》の底の秘密へ、
日がな終日《ひねもす》、昼間《ひるま》から、今日《けふ》の朝から、昨日《きのふ》から、遠い日の日の夕《ゆふべ》から、
ふりつづく長い長い憂欝《いううつ》の単音律《モノトニー》、
その青い雨……黴くさい雨……投げやりの雨……
辛気くさい静かな雨、かなしいやはらかな……生温《なまぬ》るい計画《たくらみ》の雨。
雨……雨……雨……
[#地から3字上げ]四十三年六月

  葱の畑

寥《さび》しい霊《たましひ》が鳴《な》いて居る。
そこここの湿《しめ》つた黒《くろ》い土《つち》のなかで
昼《ひる》の虫《むし》が
幽《かす》かな、銀《ぎん》の調子《てうし》で鳴《な》いてゐる。

疲《つか》れた日光《につくわう》が
五時半《ごじはん》ごろの重《おも》い空気《くうき》と、
湯屋《ゆや》の曇硝子《くもりがらす》とに、
黄色《きいろ》く濡《ぬ》れて反射《はんしや》し、
新《あたら》しい臭《にほひ》のなかに弱《よわ》つてゆく。

寂《さび》しい霊《たましひ》が鳴《な》いてゐる。

毛《け》なみのいい樺《かば
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